アマチュア無線や電子工作,バイクの話などを徒然なるままに書き散らすメモ程度のblogです.


by jq1ocr

法医学が古代言語学を進化させる

本来エイプリルフール限定で公開するつもりのエントリでしたが,今年もコメントを戴いたので,冗談ネタだということを明記させていただいた上で,公開を続けることとしました.
先日東大の図書館に行って文献調査をしていたらおもしろい論文を見つけました.原文はドイツ語で且つ結構長い論文だったのでその内容をかみ砕いて背景から説明します.

日本人が英語をしゃべるときにはどうしても若干訛りますよね.いくら流暢でも日本人だと分かります.逆に欧米人が話す日本語もいくら流暢でも声だけで日本人ではないと分かります.それはなぜかというと,母国語の性質が体にその印を刻んでいるからです.例えば日本語のように子音の後にほぼ必ず母音が来るような言語と,子音だけでも音節が存在しうる言語では舌,唇,あごの使い方が異なります.これは筋肉の使い方が違うことを示していて,それが主に頭蓋骨,上下顎骨といった骨格にも影響を与えるのです.ですから普段英語を多く話す人が日本語を話すと,どうしても若干の違和感は感じるわけです.また完全なバイリンガルの場合では,両言語に影響を与えてしまいます.(例:アグネス・チャン氏)

法医学では,上記の原理を利用して,頭骨からその遺体の人物がどんな言語を話していたか推測することが行われています.各言語がもつ子音を含む割合からの類推とすれば,同じ言語でも方言などがあれば誤差が出ると思うのですが,実は同じ言語ではほぼ同じ割合になるそうで,ほとんど亜種的な違いしかないとのことです(例えば日本語なら標準語と関西弁の違いは骨格の差にはほとんど現れないということ).ちなみに子音の使用頻度が高く,種類も多いのは黒海沿岸の言語やアフリカ南部のボツワナ付近の言語,そして頻度は高いが種類は少ない言語ではパーセルタングがあるそうです.もちろん子音の多寡だけが骨格に現れるわけではないので,それだけで分析しているわけではありません.

更に近年では頸部付近の骨格から声帯の形状を推測することも可能になっているとのことで,その人の使用していたはずの言語の持つ特徴が詳細まで分かるようになっているようです.(要するに声帯の形状まで再現できると,比較言語学で現在解析が済んでいる4000種類の言語から,非常に高い確率でその言語を同定することができ,また方言もある程度分かるらしい.)ちなみに声帯や顔の筋肉が保存された状態だとほぼ完璧に同定可能ということですが,法医学の実際の現場では DNA 鑑定との併用で同定されます.

ところで論文は考古学に関するものでしたが,これは前述のような法医学と比較言語学での知識を古代言語学に応用するという内容でした.考古学での骨格標本は従来は原型に矛盾しないよう表面上連続した形状につなぐだけで終わらせることが多かったのですが,近年では標本内部の微小構造を X 線解析する技術を応用して,骨内部を含めた微細な密度分布を求め,原型からどのような変形を受けたかを計算,そこから逆にほぼ完全な原型を計算機上で求めることが出来るようになったのです.それに法医学で用いられている,その個体の発音分布を求める手法を適用し,古代において話されていた言語自体を再構成する資料とするわけです.(前述の通り,ミイラで筋肉や声帯が残っている年代については,かなり高精度な言語再構成が可能なのは,皆さんご存じの通りです.)

世界各地の言語データと,ある程度分かっている古代言語データから変化を分析し,先祖返りするような形で古代言語の持つ特徴を明らかにするというのは,なかなかおもしろい研究だなと思いました.

ちなみに旧人類(どこのだか失念しました)の化石を前述のような手法で解析したところ,かなり母音の占める割合が多いが,その種類はそれほど多くない(ほぼ3つ)言語を話していたことが分かったそうです.実際にこの旧人類が話していた言葉(らしきもの)自体が再現できるほど分かるようにはなっていませんが,言語遷移学では連続する世代間の言語変化はそれほど大きくないとされていることを使って,年代的に隣接した標本を解析することが行われています.現生人類の話す言語については標本も多いので旧石器時代の終わるほぼ8千年程度までさかのぼって単語やその発音,意味まで分かるという研究結果が出ており,アルプスはイタリア・オーストリア国境のエッツ渓谷の氷河で発見されたミイラ「アイスマン」についても言及されていました.旧人類や原人に関しても標本が多く出てくれば分かるようになるでしょう.そのうち「第3外国語で「ジャワ原人語」をとった」なんて人が出てくる時代が来るかも知れません.笑
[PR]
Commented by egv at 2014-04-01 21:47 x
読んでいないけど、すばらしいですね。
by jq1ocr | 2014-04-01 08:00 | 徒然話 | Comments(1)