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by jq1ocr

エッチング液を作る

昔は処理剤もセットになっているサンハヤトのエッチング液を使っていましたが,高価なため今では銅版画用の腐食液を使ったりします.エッチング液は使うと弱くなりますが,補強するために別途粉末の塩化第二鉄を持っています.ところがエッチング液の在庫が払底したのと,先日エッチング槽を個人で用意したので,これを使うために粉から新規にエッチング液を作ることにしました.

そういえば昔も粉から作ったような気がしますが,濃度が分かりません.なんだか色合いで決めていたような気がします.ずいぶんたくさん入れたような覚えもあります.で,調べてみたのですが,どうも濃度についての記述が見あたりません.あるところに「5% 或いは 13%」と書かれていたのを発見しましたが,そんなに薄かったかなぁ.それに「或いは」ではなく「乃至」じゃないかなぁ.まあそんな重箱の隅はおいといて,とりあえず 10% で作ってみました.試作は手持ちのボトルの関係で塩化第二鉄 50g に水 450g です.しかしやっぱり色からして薄いです.もしかして粉が水和物だからその分引くのかな?分子量は

  • FeCl3⋅6H2O = 270.30
  • FeCl3 = 162.30

ですから,概ね6割しか有効ではないとすれば,その分足さなければなりません.最初に溶かした 50g に単純に 30g ほど足してみました.が,まだ薄いなぁ.やっぱり次から粉で一から作るのはやめようっと.でも今回は手をつけてしまったので最後までやらねば.ただ,量をそんな主観的な印象(色の濃さ)で決めるのもどうかと思うので,化学的に計算してみるとどうなるか考えてみました.ちょっと強引な伏線でしたが,一部で人気の計算シリーズです.笑

まず仮に 10cm × 15cm の片面基板の全面をエッチングするのに必要な第二塩化鉄の量を計算してみましょう.

銅箔はサンハヤトの基板だと 35µm の厚みがありますので,エッチングされる銅の体積は
35×10-4×15×10 = 0.525 cm3
となります.銅の比重は 8.95 g/cm3 なので,この銅箔の質量は
0.525 × 8.95 = 4.70 g
となります.銅の分子量は 63.5 なので,この銅は 7.4 × 10-2 mol です.ここでエッチングの化学反応を考えますと,
2FeCl3 + Cu → 2FeCl2 + CuCl2
ですから,1mol の銅をエッチングするのには 2mol の塩化第二鉄が必要であることが分かります.すなわち,この銅箔を溶かすのに必要な塩化第二鉄のモル数は14.8 × 10-2 mol となります.ここで,FeCl3の分子量は 162 ですから,これより 24g の塩化第二鉄が必要であることが分かります.結構量は多いんですね〜.ちなみに先ほど書いたように一般的に出回っている塩化第二鉄の試薬(*)だと六水和物(FeCl3⋅6H2O)だと思うので,その場合は 40g になります.

エッチング液中の塩化第二鉄が,反応に必要な,計算で求めた量以上ないとすれば,反応初期は良くても,どんどん反応速度が遅くなっていってしまいます.反応速度は濃度にある程度比例するはずなので,40g では永遠に反応が終了しないことになってしまうのです.そこで反応終了時にも十分な量の塩化第二鉄が残っているように,たっぷりと供給することが必要になるわけです.

私の場合,最近はマイクロストリップラインを書くことが多いので,片面はほとんどエッチングでとってしまうことが多いです.ということはかなりエッチング液には過酷な条件であり,ちなみに先ほど作ったエッチング液では二枚も出来ないことになるでしょう.やはり1枚エッチングするたびに新しいエッチング液や塩化第二鉄の粉末をどんどん足していかないと駄目なわけですね.基板の用途によっては,エッチングで除去する領域を特に大きくする必要がない場合もあるでしょう.そういう場合には,銅箔を多く残すのがエッチング液にはよいことになります.

そういえば基板加工機もフライスのようなもので銅箔を削っていくので,削る面積が大きいほど加工に時間がかかります.ちょっと似てるなぁと思いました.RFの場合はパターンの作り方は非常に重要ですが,そういう分野でなくても,仕事で基板を作っている人には,こういうこと(引き方で加工効率をあげる)を考えるのは必須なんでしょうね〜.

【まとめ】腐食させる銅箔150cm2あたり,塩化第二鉄40g足す.
(例:15×10cmの基板でエッチング率50%だと塩化第二鉄20g分消費する)

(*)試薬は高価なので,工業用の塩化第二鉄が入手できなければ,やはり一般論としては美術用のを使うのが一番良いと思います.

Commented by JA1PZD at 2012-11-25 03:25 x
初めまして。大変ありがたい計算を示しえてくださって大感謝です。いつも大事な場面でエッチング液がダメになってばたばたしていましたが、これで補充管理が行き届きそうです。エッチング液って重くて量があって高い割には案外あっけなく消耗してしまうんですよね。 最近は私もハタと気が付いて画材屋さんから仕入れています。中和剤まで売っているようですね。
話は変わりますが、TDUの3文字、懐かしいです。まだTDUではなくてTEECと呼んでいた時代に、1部E科を卒業したOBです。(YAQには所属していませんでしたが) コンテストでは毎回交信してますが、ゆっくりお話することもできず残念です。

萬 新一 JA1PZD
Commented by jq1ocr at 2012-11-27 07:50
おはようございます.実際はエッチングに要する時間で交換してしまうのが失敗が無くてよいかも知れませんね.中和剤は画材屋でエッチング液の隣に置いてあると思います.これも結構量が必要になります.
Commented by 通りがかりの基板屋 at 2019-05-18 10:02 x
塩酸と過酸化水素が手に入るなら、下の方法が簡単かもしれません。再生は過酸化水素を足します。足す量は色の変化の確認する程度で十分だろうと思います。(工業的に作るような場合)正確には水も必要ですが家庭での粗い回路ならそこまで必要ないと思われます。
https://makezine.jp/blog/2009/11/my_new_favorite_etchant.html
Commented by jq1ocr at 2019-05-18 11:43
通りすがりの基板屋さん

エッチング方法はいろいろありますよね.液体をもっと簡単にして塩水だけでやる方法なんかもやってる人がいます.電源がいるのでトータルで簡単かは分かりませんが,わざわざ買ってこなくていいところは楽そうです.試したことはないので,うまく出来たらエントリします.hi
Commented by 通りすがり at 2020-06-11 08:12 x
エッチングのことを検索してたどりつきました。
気づいたことを思いつくままに・・・

表題は”最近の”ですがかなり古い記事から(基本は今でも同じです)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiep1986/8/7/8_7_545/_pdf

メッキ等のプリント基板の薬品を製造・販売しているメーカーの方が書かれたものです。これによると塩鉄は370g/L、50°Cでエッチングするとお使いの1オンス箔だと5分程度の浸漬でエッチングできるようです。
基板の製造現場では、昔は塩鉄が多かったですが90年代には塩銅に変わりました。。

おしゃるように水和物だとさらに重量的には使用量が増えます。1Lあたり370gは620g程度になります。エッチング速度は一般に濃度が上がる、温度が上がる、スプレーなら圧力が上がる方が速くなります。

工業的には、最近は硫酸と過酸化水素水の系もよく使われます。家庭でも硫酸が手に入るなら(多分、身分証明等が必要だったかと思いますが)、こちらの方が簡単かもしれません。難点は硫酸は人間の肌を腐食するので皮膚に触れると化学やけどします。使用経験がないなら、塩鉄系が一番安全です。塩銅系でも揮発性の塩酸を使いますのでこちらも最低限の知識が必要です。

電解エッチングでパターンを作るのは電気メッキ浴のように調整しないと大変そうです。原理的には食塩水などの電解液があればできますが・・・エッチング速度は流す電流に比例しますが、電気メッキよりはかなり大電流にしないと時間がかなりかかりそうです。工業的には製面のための電解研磨という方法が同じ仕組みでエッチングしています。
Commented by jq1ocr at 2020-06-11 08:51
もうすでに一昔前の記事ですが,コメントありがとうございます.ただこれは計算ネタなので,特にエッチングのことについて考えてたわけではないです.ちなみに自宅でのエッチングは,片付けが面倒なので,オキシドールとクエン酸でやっちゃってます.どっちも百円ショップでも買えますしね.
Commented by 通りすがり at 2020-06-15 12:10 x
塩化第二鉄って,FeCl3(+水和水)ですよね?文中 FeCl2 と混在しているようなのですが..
昔の記事に突然のコメントすみません..でも気になったので..
Commented by jq1ocr at 2020-06-15 12:32
そうですね.一番最初のは塩化鉄(II)(=塩化第一鉄)ですね.html のタグをコピペするときに H2O のを元にしていて,そこを3に直すのを忘れていたようです.筋書きとあとの数字はあってるとは思いますが,あとで直しておきます.コメントありがとうございました.
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by jq1ocr | 2008-11-04 22:48 | 徒然話 | Comments(8)